『笑わぬ姫君』(5.5)
私がここにきて、早一週間が経つ。今日も、城での夜がきた。
手紙に誘われるがまま、訳も分からずここに来て、奥方様から藤姫様を笑わせてほしいと頼まれた、一日目。
初めて会った姫様は、想像以上に美しい方で……それと、どこか寂しそうに見えた。
翌日も、その翌日も、何とか笑わせてみようと励んだ私達。けど、当の姫様は一向に笑みを見せない。
またあるとき、女中部屋の近くを通りかかり、悔しい思いをして。けど、お紀の勇気に元気をもらったりした。
そのまた翌日。城に長年仕えている人物なら何か知っているだろうと、守ノ局様を訪ねた私。
けど、口の堅い彼女は、姫様のプライバシーとプライドを守るため、何も話してはくれない。でもいつか、守ノ局様が私を心から信頼してくれる日がくれば、そのときは話してくれるはず……。
ええ、きっと明日こそは、姫様を笑わせてみせるわ。
「さ、そろそろ寝ましょうか。」
…………。
布団をかぶりかけて、ばさっと起き上がる。
ダメ、やっぱり眠れそうにないわ。姫様が、どうしたら笑ってくれるのか。そればかり考えてしまう。
そうだ、散歩行ってこよう。
私は、ふとんを剥いで、寝巻のまま廊下に出た。
少し散歩すれば、きっとすっきりするはずだと思ったから……。
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